BLUE GIANT

とても面白かった。

きれいな種類の筆致ではないのがむしろ話にあっていてよかった。熱さのようなものを伝えるにはきっとこういう絵のほうがあっている。これが例えば大暮維人とか小畑健のようなきれいに整いきったタイプの絵だったらたぶん熱量が伝わりきれなかっただろうと思うし、また違う印象の少しライトな漫画になってしまったかもと思った。

本作では主人公はまだ大成しない。ざっくりの話の方向性で言うと、完結の10巻の最後はハッピーエンドには終わらず、主人公のバンドの柱であるメンバーに不幸が訪れて終わる。

もちろんそれにも意味があって、本人もそれを受け入れて、というドラマとして機能させる意味もあってのことだけど、この手の作品でなんの破綻もなく大成功するというのは物語を面白くするという点においてタブーに近く、そのセオリーをなぞってしまった感はある。

主人公は才能があり、一瞬も努力を怠らない。ただその手の人にありがちな、自分以外の人間に対してある意味容赦がなく、配慮もない。それは自分自身のポリシーに沿って正しく運用された結果ではあるけれど、ときに息苦しく、つらい。

東京に出て最初に手にしたギャラで、メンバーは世話になった人たちに贈り物をしたのに対し、主人公は妹にフルートを買って送る。妹がフルートをやりたいという伏線でもあったっけ…?

たぶん自分にサックスを送ってくれた兄に対する意趣返しの意味もあるのだろうとは思いますが、少し独りよがりな気も。

三田さんのことも、彼女に対する気持ちがなかったわけではないけれどそっちのけでサックスに夢中になっていて、最終的に振られたときにはそれで落ち込むという自分本意な振る舞いには少し嫌悪感を覚えた。

さて、個人的には玉田がすごくよかった。

学生のときにサックスに傾倒しすぎて仲間の輪から外れつつある主人公をずっと見てくれていて、その描写に対して当初は陽キャがクラスで浮きそうなやつを気にして世話を焼いている、余計なことを…くらいの捉え方をしていたけれど、東京編では主人公を自分の部屋に住ませて、なんとバンドのドラムという形で主人公を支えてくれる、居ないとこの物語が成立しない重要人物の一人でした。

もともと才能があった者たちが年月をかけて培った技術や知識に対し、ドラムというこれも才能と努力を殊更必要とする楽器で完全な初心者の状態でついていかないといけないという地獄に自らを投じ、心折れそうになりながらもひたすら練習を重ねた末にバンドとして成立するところまでたどり着くその姿に僕は一番感動しました。

「君の成長するドラムを聴きに来ている」とお客さんの一人から言われたときは読んでて涙ぐんでしまいました。

無印は1st シーズンらしく、このあと2nd,3rdと続くようなので、読むのがとても楽しみです。

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